鵜飼

うかい Ukai

1 概要

安房国（千葉県）清澄の僧（ワキ）は従僧（ワキツレ）とともに甲斐国（山梨県）へ向かう。甲斐国石和（いさわ）に着いた僧一行は、里の男（アイ）に一夜の宿を乞うが、禁制を理由に断られてしまう。僧一行は、川岸の堂に泊まることにする。そこへ鵜使いの老人（前シテ）が現われ、僧一行と言葉をかわす。老人をみた従僧のひとりが、かつてこの地を訪れた際、ある鵜使いから宿を借り、懇ろにもてなされたことを思い出す。老人がその鵜使いは殺生禁断を犯した罪により里の者に殺害されたことを語ると、自らをその鵜使いの亡霊であると明かす。僧のすすめにより老人は鵜飼の様子を再現してみせるが、月が出たため漁を断念し、名残惜しそうに消え去る。里の男が再び現れ、僧の様子を見に行く。里の男は僧に尋ねられるままにかつてこの地で殺害された鵜使いのことを物語り、鵜使いの跡を弔うよう僧にすすめ立ち去る。僧が弔うところへ閻魔王（後シテ）が現われ、鵜使いは地獄へ落ちて当然であったが、鵜使いがかつて僧に宿を貸したことや僧の読んだ法華経の功徳によって閻魔王は心を和らげ、鵜使いを極楽に送ることを述べる。

2 上演記録

上演年月日	西暦	記録名	曲名表記
寛正5年4月4日	1464年	糺河原勧進猿楽日記	鵜飼
寛正6年9月25日	1465年	蔭涼軒日録	鵜飼
文亀3年9月19日	1503年	実隆公記	鵜飼
永正8年6月29日	1511年	隅田八幡史料	□かい
天文1年5月2日	1532年	言継卿記	鵜飼
天文10年2月7日	1541年	天文日記	鵜飼
天文18年1月12日	1549年	天文日記	鵜飼
天文22年1月13日	1553年	天文日記	鵜飼
永禄7年8月4日	1564年	言継卿記	鵜飼
天正15年1月22日	1587年	丹後細川能番組	鵜飼
天正16年11月8日	1588年	丹後細川能番組	鵜飼
文禄1年3月16日	1592年	能之留帳	鵜飼
文禄1年4月4日	1592年	能之留帳	鵜飼
文禄2年4月3日	1593年	能之留帳	鵜飼
文禄2年5月22日	1593年	能之留帳	鵜飼
文禄2年9月9日	1593年	能之留帳	鵜飼
文禄2年10月7日	1593年	文禄二年禁中能番組	鵜飼
文禄2年11月25日	1593年	能之留帳	鵜飼
文禄3年4月12日	1594年	能之留帳	鵜飼
文禄3年9月0日	1594年	能之留帳	鵜飼
慶長1年5月8日	1596年	能之留帳	鵜飼
慶長1年12月3日	1596年	能之留帳	鵜飼
慶長1年12月15日	1596年	能之留帳	鵜飼
慶長1年12月23日	1596年	能之留帳	鵜飼
慶長4年8月5日	1599年	能之留帳	鵜飼
慶長7年4月26日	1602年	能之留帳	鵜飼

3 現在の上演流派

五流

4 語句の用例

4.1 法華経／法華三部経

（ワキ・ワキツレ）川瀬の石を拾ひ上げ、妙なる法の御経を、一石に一字書きつけて、波間に沈め弔はば、などかは浮かまざるべき （観世流大成版）

※旅の法華持経僧（ワキ・ワキツレ）が漁師の霊を弔う場面。この直後、地獄の鬼（後シテ）が現れ、漁師が経の功徳によって地獄を脱したことを明かす。

4.2 無二亦無三

（後シテ）法華は利益深きゆゑ、魔道に沈む群類を、救はんために来りたり、　（地謡）げに有難き誓ひかな、妙の一字はさていかに、　（後シテ）それは褒美の言葉にて、妙なる法と説かれたり、　（地謡）経とはなどや名付くらん、　（後シテ）それ聖教の都名にて、　（地謡）二つもなく　（後シテ）三つもなく、　（地謡）ただ一乗の徳によりて、奈落に沈み果てて、浮かみ難き悪人の、仏果を得ん事は、この経の力ならずや （観世流大成版）

※鵜飼の霊を救うべく法華経を手向けた法華持経僧（ワキ）の前に地獄の鬼（後シテ）が現れ、鵜飼が仏所へと無事送り届けられたことを告げ、法華経の功徳を讃える場面。

4.3 聖教の都名

（後シテ）法華は利益深きゆゑ、魔道に沈む群類を、救はんために来りたり、　（地謡）げに有難き誓ひかな、妙の一字はさていかに、　（後シテ）それは褒美の言葉にて、妙なる法と説かれたり、　（地謡）経とはなどや名付くらん、　（後シテ）それ聖教の都名にて、　（地謡）二つもなく　（後シテ）三つもなく、　（地謡）ただ一乗の徳によりて、奈落に沈み果てて、浮かみ難き悪人の、仏果を得ん事は、この経の力ならずや （観世流大成版）

※法華持経僧（ワキ・ワキツレ）の前に現れた地獄の鬼（後シテ）が法華経の功徳を讃える場面。