女郎花：乙

1 概要

九州・松浦（まつら）から都へ行く旅僧（ワキ）は、その途中、石清水八幡宮がある男山（京都府八幡市）の麓を通る。旅僧は女郎花を手折ろうとする。老人（前シテ）がそれを制止する。老人と旅僧は和歌などについて語りあう。老人は、旅僧を石清水八幡宮へ案内した後、山の麓にある男塚・女塚へ連れていく。老人は、男塚の主・小野頼風（おののよりかぜ）だと正体を明かして、姿を消す。男山の麓に住む者（アイ）が現れて小野頼風について語る。夜、旅僧が読経していると、頼風とその妻の亡霊（後シテ・後ツレ）が現れる。二人は、行き違いから妻が入水したこと、妻の塚（墓）から女郎花が咲いたこと、そして、小野頼風も妻を追って自害したことを語る。この出来事によって、妻の墓が女塚、小野頼風の墓が男塚と呼ばれるようになったと、二人の亡霊が語る。頼風は、自分が地獄の責め苦を受けている様子を見せると、僧に回向を頼む。

2 異名（古名）

頼風[よりかぜ]

3 現在の上演流派

五流

4 語句の用例

4.1 和光同塵は結縁の始め、八相成道は利物の終はり

（前シテ・ワキ）和光の塵も濁り江の、河水に浮かむ魚類は、げにも生けるを放つかと、深き誓ひもあらたにて、恵みぞ繁き男山、栄ゆく道の有難さよ （観世流大成版）

※旅僧（ワキ）の前に現れた老人（前シテ）が、僧を石清水八幡宮へと案内する場面。老人は実は放生川に入水した女の夫・小野頼風の霊。

4.2 南無／帰命

（ワキ）一夜臥す、牡鹿の角の塚の草、蔭より見えし亡魂を、弔ふ法の声立てて、南無幽霊出離生死頓証菩提 （観世流大成版）

※旅僧（ワキ）が地獄に堕ちた小野頼風夫妻を弔う場面。この直後、頼風の霊（後シテ）と妻の霊（ツレ）が出現する。