安宅

あたか Ataka

1 概要

源義経（子方）は兄の頼朝に追われ、武蔵坊弁慶（シテ）や家来たち（ツレ）と、山伏姿に身をやつして都を落ちのびる。加賀国安宅関（石川県小松市）では、関守の富樫某（ワキ）と従者（アイ）が義経たちを待ち受けている。弁慶は強力（山伏の召使）（アイ）を関へ偵察に遣る。弁慶たちは富樫の前で祈祷を行い、弁慶がただの巻物を勧進帳と称して読み上げる。弁慶の機転で関を通過した一行が休んでいると、富樫が酒を持って現れ、酒宴となる。弁慶は舞を舞い、一行は立ち去る。

2 上演記録

上演年月日	西暦	記録名	曲名表記
寛正6年3月9日	1465年	親元日記	安宅
文明8年2月14日	1476年	大乗院寺社雑事記紙背文書	勧進帳〈あたか〉
天文10年2月6日	1541年	天文日記	安宅
天文14年3月8日	1545年	言継卿記	安宅判官
天文14年3月11日	1545年	言継卿記	安宅判官
天文23年3月12日	1554年	言継卿記	安宅
永禄7年5月15日	1564年	言継卿記	安宅
天正2年7月14日	1574年	（伊達家古文書）伊達輝宗日記	安宅
天正15年5月28日	1587年	伊達治家記録	安宅
文禄2年4月26日	1593年	能之留帳	安宅
慶長1年5月5日	1596年	能之留帳	安宅
慶長1年6月19日	1596年	能之留帳	安宅
慶長7年6月1日	1602年	能之留帳	安宅
慶長7年12月11日	1602年	能之留帳	安宅

3 異名（古名）

十二人[じゅうににん]？

4 現在の上演流派

五流

5 語句の用例

5.1 生死長夜

（シテ）惟んみれば、大恩教主の秋の月は、涅槃の雲に隠れ、生死長夜の永き夢、驚かすべき人もなし （観世流大成版）

※山伏に変装した弁慶（シテ）が、東大寺復興の浄財をつのる勧進帳を読み上げる場面。勧進帳の文句は弁慶が即席で作った偽物。

5.2 現在の果を見て過去未来を知る

（子方）げにや現在の果を見て過去未来を知るといふこと、　（地謡）今に知られて身の上に、憂き年月の如月や、下の十日の今日の難を、遁れつるこそ不思議なれ、　（子方）たださながらに十余人、　（地謡）夢の覚めたる心地して、互ひに面を合はせつつ、泣くばかりなる有様かな （観世流大成版）

※奥州への逃避行の途中、安宅関を辛くも抜けた源義経（子方）が、弁慶（シテ）や家臣たち（ツレ）とともに自らの境遇を嘆く場面。

5.3 現受無比楽、後生清浄土

（シテ）一紙半銭の、奉財の輩は、この世にては、無比の楽に誇り、当来にては、数千蓮華の上に坐せん （観世流大成版）

※山伏に変装した弁慶（シテ）が、東大寺復興の浄財をつのる勧進帳を読み上げる場面。勧進帳の文句は弁慶が即席で作った偽物。

5.4 オンアビラウンケンソワカ

（ツレ）即心即仏の山伏を、　（シテ）ここにて討ち留め給はん事、　（ツレ）冥の照覧計り難う、　（シテ）熊野権現の御罰を当たらん事、　（ツレ）立ちどころにおいて、　（シテ）疑ひあるべからず　　（地謡）オンアビラウンケンと、数珠さらさらと押し揉めば （観世流大成版）

※山伏姿に変装した弁慶（シテ）以下の義経一行（ツレ）が、一行を斬ろうとする富樫某（ワキ）の前で最期の勤行をおこなう場面。

5.5 南無／帰命

（シテ）帰命稽首、敬つて白すと、天も響けと読み上げたり （観世流大成版）

※山伏に変装した弁慶（シテ）が、東大寺復興の浄財をつのる勧進帳を読み上げ終える場面。勧進帳の文句は弁慶が即席で作った偽物。