四百番本「鱗形」

05-1 鱗形

{次第}《八百万代をおさむなる。〃、弓矢の家ぞ久しき》、
{ワキ詞}〽抑是は北條の四郎時政にて候。我弓矢の家に生るゝといへ共。未籏の紋さだまらず候程に。江の嶋の弁才天に参り。一七日参籠申て候へば。いろこを三つ給りて候間。重て参詣仕候、
{サシ}〽《夫弓矢は天地陰陽をかたどり。しつとく五行の姿、
{ツレ}〽さればしんわうの作りし桑の弓。をんてきまかひをほろぼして、〽国家のたからと、〽なすとかや、
{上同}又は仏法王法の。〃、しづかなる国となる事も一張の弓のいきほひ。月むねに有。是ぞ真如の月弓に。悪魔もいかでおそれざる、〃、
{シテ上}〽抑是は。此嶋を守護し奉る。胎蔵界の弁才天とは。我事也、
{地}〽有難や。扨はたへなる神徳により。我家の名も久堅の。月の桂の手に取斗に、
{シテ}〽はれたる空に三ついろこがたの、
{地}〽籏さしあらはれて。是〃弓矢の家を守りのしるしの籏ぞと時政にたびにけり、
{上同}たゞたのめしめぢが原のさしも草。しめぢがはらのさしも草。我世の中にあらむ程は。たとひしかいのけきたうまのごとくきほひくる共、汝此籏をさしむかはゞ。我神通の身を変じて、
{下シテ}〽解脱のたてとなり、
{同}げだつのたてとなつて、六通さんみやうのつるぎをひつさげ。ふげんせきしつのときをつくり。むみやうさむげのかたちをはらつて。其身も息災あんをん成べし。あふぎねがはくばたゞ信心をいたすべしと。あらたに御声。みことのり。あらたに御声みことのりして、神体はみとしろに。立かくれてうせにけり》